― 作曲も数学も、考えることが好き
4歳から中学2年生までヤマハに通っていたという中島さち子さん。最初は大阪の教室に通い、関東へ引っ越してきた後は、ジュニア専門コースへ。
その後、作曲やエレクトーンのレッスンを含め、週3~4日ヤマハに通っていたそう。「あまり誰にも『練習しなさい』と言われることがなく、自由に作曲をしたり、弾いたり。自分の曲をみんなでアレンジをしてアンサンブルをしたり、本当に楽しかった思い出ばかりです」。
中学に入って、ラヴェルやバルトークなどを学び、作曲が面白くなってきたそうですが、「逆に自分が作る曲がどれも似てきて。何か限界を感じたのかもしれません。そこで、ヤマハはやめてしまいました」。
そして、時間に余裕のできた中島さんは、数学に出会います。「作曲もそうですが、もともと『考える』ことが好きで。数学も、受験やテスト用の勉強ではない、考える問題としての面白さに魅力を感じました」。
中学3年生の時に、『大学への数学』という雑誌で、ピーター・フランクルさんが1カ月に1問だけ問題を出すという連載があり「1カ月間、その問題のことばかり考えて、そこで数学の魅力に目覚めました」。

― 数学は、芸術と同じ。音楽と共通するものがある
数学というと、苦手意識を持つ人も多そうですが、「数学は、本当はアートや芸術に近いものがある」とも語ります。「数学は答えが1つなのがいいという人がいますが、私は逆です。答えが1つじゃないから面白い。世界をどう見るか。数学を通して物事を見つめると、視点がとても自由になるのです」。
例えば10という数字も、1が10個なのか、2が5個なのか、20の2分の1と考えるのかで、考え方が広がります。「答えは1つでも、そこに行くまでの解法には、答える人の個性が出ます。全然違うようなアイデアを絡めたら一瞬で解ける美しい解き方もありますが、回り道をしても、それが新しい考え方のヒントになったり。同じりんごを描いても十人十色のように、私にとっては、数学も、芸術に近い感覚なんです」。
また、数学は解けた瞬間も面白いですが、考えたり分析したりする過程や失敗も面白いそう。「作曲も、ひらめきで曲が生まれるときもありますが、スランプになることも。でも試行錯誤をすることで、自分の感覚が新しく磨かれて答えが出ます。そこが数学と似ています」。
中高時代はバリバリの理系かと思いきや、「本を読んだり、考えたりするのが好きなので、周りからは文系だと思われていました」とか。

― 大学でジャズに出会い数学と音楽を並行
ヤマハをやめてからは、「たまに煮詰まったら自宅で即興を弾いたり、学校で伴奏でピアノを弾くくらい」だったそう。
それが高校3年生の時、音楽の授業で管弦楽部の子たちと組み、クリスマス曲のメドレーを発表したのをきっかけに、大学入学後は、音楽サークルに入り、再び音楽にものめり込みます。
中でも、特にジャズは、「弾き手と聴き手から生まれる化学反応が面白い」と、2年生からは、ジャズ専門のサークルにも。昼間は数学、夜はジャズという学生時代を過ごし、卒業後は大学院で数学を研究する道と迷いながらも音楽の道へ。
同時に、現代数学の面白さを子どもたちに伝える学びの場で、講師をするなど、常に数学にも触れる生活はしていたそう。
そのまま10年ほど音楽活動を続けていましたが、娘さんが生まれた10年くらい前から、自身が楽しみつつも、社会に「自分の好き」を何かの形で還元したい、と考えるように。
現在はそのためにも、ニューヨーク大学のアートスクールに留学し、音楽とテクノロジーの融合について学びつつ、「もっと音楽と数学が近いことをみなさんに知ってもらいたい」と世界各地で数学と音楽を絡めたワークショップなども行っています。
保護者には「一見遠回りに見えることでも、『好き』がかけ算のようにつながり、人生が豊かになることも。今を一緒にお子さんと『ワクワク』を楽しんでください」とメッセージを。

プロフィール
ジャズピアニスト/数学研究者。1979年生まれ。大阪府出身。フェリス女学院高等学校2年生のときに国際数学オリンピック(インド大会)にて日本人女性初で唯一の金メダルを獲得。東京大学理学部卒業後、音楽の道へ。2010年頃より数学研究を再開。現在は、演奏・作曲・数学研究の他、数学と音楽をかけあわせたイベントなども企画、実施。2018年よりフルブライト奨学生としてニューヨークに渡り、ニューヨーク大学にてアートとテクノロジーの融合についての研究を深めている。一児の母。
Photo:Akira Moriyasu/Text:Hana Hasegawa










