音楽教室の耳寄り情報をお届け!教室だより
音楽教室の耳寄り情報をお届け!教室だより
メニュー
  1. ホーム
  2. 教室だより
  3. 音楽・子育て情報
  4. 子どもの心を育む 絵本の読み聞かせ ~絵本専門士 鴫原晶子さんに聞く~

子どもの心を育む 絵本の読み聞かせ
~絵本専門士 鴫原晶子さんに聞く~

「絵本専門士」として幅広く活動されている鴫原晶子先生にインタビュー。
絵本とは何なのか、読み聞かせがなぜいいのか、いい絵本を探すヒントなど、
「絵本の読み聞かせ」に関するさまざまな興味深いお話を伺う、連載第2回目です。

<鴫原晶子さん>

絵本専門士。
幼稚園教諭の経験を経て、東京教育専門学校・前副校長、現在非常勤講師。
保育園の園内研修や子育て講座の講師を務める。
代表を務める「保育と絵本の研究会GOBOの会」にて、おはなし会や勉強会なども実施。
ペーパークイリングインストラクターや、おもちゃコーディネーターの肩書きも持つ。

[第2回] なぜ絵本を読み聞かせるのか? ~子どもと大人に与える影響~

絵本の読み聞かせを通して、子どもたちに期待できること

「子どもに絵本を読むといい」と言われているのは、いったいなぜなのでしょうか?
実は、大好きな大人に絵本を読んでもらうことで、子どもたちに期待できることがたくさんあります。今回は、その中でも私が大切だと思うものを5つ、お伝えします。

[1]心が安定し、読み手との信頼関係が育つ

親子が絵本を通して一緒の時間を過ごすことで、心が安定し、結びつきが強まります。なぜかというと、大人が子どもに向き合い、心を込めて絵本を読むと、それを聞く子どもも心をいっぱいに開き、夢中でお話に入り込むからです。そうして心をしっかり通わせ合いながら、親子で絵本の世界を旅し、共通の楽しい体験をします。こうした経験が、人とつながりあって生きることへの基本的な信頼感を養い、成長してもどこか通じ合える、目に見えない絆になるのです。

幼稚園や保育園でも、はじめの頃は心が不安定な子がいます。泣いて登園する子、緊張している子、人見知りな子……。でも、絵本の読み聞かせを毎日続けていると、徐々に心が安定してくるのがわかります。絵本はいわば「やすらぎの基地」。保育者にとっても、子どもたちと心を通わせるために、絵本は欠かせないものなのです。

[2]語彙が増える

絵本には、子どもたちの言葉の世界を広げる役割もあります。絵本の楽しさを、大好きなお父さんやお母さんを通してたっぷり味わうことで、言葉を聞く喜びを知っていくのです。

例えば、オノマトペ(擬声語・擬態語)の豊富さは、日本独特のものですよね。『じゃあじゃあ びりびり』(作・絵:まついのりこ/偕成社)とか『もこもこもこ』(作:谷川俊太郎/絵:元永定正/文研出版)などの赤ちゃん絵本は、リズムや動きがあり、響きもよく、そうした言葉が知らず知らずのうちに身につきます。言葉を具体的なイメージで心に描けるようになるのが絵本なのです。

[3]生活や非日常の疑似体験ができる

自分でできることが増え、日常の生活体験が少しずつ積み重なってくる2~3歳。この頃から、子どもの日常生活に添った絵本を読み聞かせることで、興味はさらに広がります。そして少し大きくなると、お手伝い、留守番、おつかい、兄弟げんか、仲直り……絵本の内容が疑似体験となり、心と身体の支えとなっていきます。

一方、非日常の体験をさせてくれるのも絵本の素晴らしいところ。特に『めっきらもっきら どおん どん』(作:長谷川摂子/絵:ふりやなな/福音館書店)、『かいじゅうたちのいるところ』(作:モーリス・センダック/訳:じんぐうてるお/冨山房)など、異世界を冒険して帰ってくるような作品は、子どもたちがその絵本の中の人物になったような気持ちで、絵本の世界に入り込みます。児童文学作家である瀬田貞二先生は、そのような絵本を「行きて帰りし物語」とおっしゃいました。行った先でドキドキ・ワクワクした非日常の世界の冒険をし、また安住の地へ戻ってくる……これは、子どもの頃にしか味わうことのできない、貴重な経験です。

[4]異文化を知ることができる

絵本を読むことで、日本以外の国の生活様式や文化を知ることがあります。
また、日本のお話でも、昔の時代の生活の様子を知ることができますよね。例えば、有名な『だいくとおにろく』(再話:松居直/絵:赤羽末吉/福音館書店)には、烏帽子をかぶった大工さんが出てきますし、昔の橋ってこんな形をしているんだ~などとさまざまな発見もあります。いろいろな国の伝統的な民話や、日本の昔話絵本を読み聞かせることで、異文化への興味・好奇心が芽生えるのです。

[5]学童期の読書習慣への移行につながる

読書には、目に見えない言葉の世界を自分で思い描き、目に見える世界にする力=「想像力」が必要不可欠。絵本を読み聞かせることは、読書力の土台であるこの「想像力」をのびのびと成長させることにつながります。

また、お父さんやお母さんが絵本を読んでくれること、そのこと自体が子どもにはうれしく、何よりも楽しいもの。そしてこの「楽しさ」は、必ず子どもの心に深く残ります。つまり幼児期から「本というのは何て面白いんだろう」ということを、身に染みて体験することが、本への興味になっていくのです。

子どもの頃の読書活動が多い人ほど、成長後の意識・能力が高い

そして、この「絵本」から始まる子どもの読書活動が、のちの人生にどのような効果をもたらすのか、という調査結果も発表されています。

国立青少年教育振興機構では平成24年3月に、子どもの頃の読書活動が人々の意識・能力(「未来志向」「社会性」「自己肯定」「文化的作法・教養」「論理的思考」等)に及ぼす影響や効果などについて調査を行いました。

その結果、子どもの頃の読書活動が多い成人ほど、未来志向や社会性などの現在の意識・能力が高いことが判明。さらに、中学生・高校生を対象とした調査においては、読書活動の中でも特に幼児期や小学校低学年期に「家族から昔話を聞いたこと」「本や絵本の読み聞かせをしてもらったこと」「絵本を読んだこと」が多かった中学生や高校生ほど、意識・能力が高いことが明らかになったそうです。(「絵本専門士養成制度準備委員会報告書」より)

子どもたちの心の成長と発達は、目に見えにくいものです。湯浅とんぼ氏(元保育士)は「保育の結果は思春期にでる」といわれました。絵本もしかり。大人が絵本を読み聞かせることは、いま現在いい効果が期待できるだけでなく、子どもの将来にも素晴らしいギフトを与えることになるのです。

読み手にもうれしい効果がある

さらに、絵本の読み聞かせは、読み手であるお父さんやお母さんにもメリットがあることがわかってきました。

日本大学大学院の泰羅雅登教授(当時)が、母親を対象に読み聞かせを脳科学的に調査した結果、脳は、一人で音読をしているときよりも子どもを相手に読んでいるときのほうが、より活発に動いていたそう。特に働いていたのは、思考や創造力、コミュニケーション、感情のコントロールといった機能を司る「前頭前野」という部位です。

また、東北大学の川島隆太教授の母親を対象にした調査では、読み聞かせの時間が長いほど、子育てのストレスが低くなる、という研究結果も報告されています。とても興味深い結果ですよね。


さて、「絵本の読み聞かせ」が子どもや親に与える影響について見てきましたが、いかがでしたでしょうか?
毎日たった5分~10分ほど絵本を読むだけで、このようにたくさんの効果が期待できるのです。その親子の濃密な時間を、ぜひとも大切にしてほしいと思います。

次回は、「第3回 よい絵本とは何か?」というテーマで、絵本を探したり選んだりする時に参考にしてほしい、さまざまな情報についてお伝えします。

<今回の鴫原先生おすすめ絵本>

今回のおすすめ絵本は、お子さんたちが楽しめるものを選びました。
本格的な夏に向かう季節にピッタリの2冊を紹介します。

「トマトさん」 作:田中清代(福音館書店)

少々見栄っ張りのトマトが主人公です。
暑くて暑くてたまらないから他の小動物やプチトマトたちみたいに川に入りたいのに、からだが重くて一人では動けません。
でも、優しい仲間たちに手伝ってもらって「じゃっぷーん!」と川の中へ。読み終わったときに、清涼感を味わえます。

「めっきらもっきら どおん どん」 作:長谷川摂子/絵:ふりやなな(福音館書店)

日常の世界から、おかしな3人のばけものがいる非日常の世界に迷い込んだ男の子が主人公。
昭和に子ども時代を過ごした者だからでしょうか、不思議さだけではなく懐かしさを感じます。
ちょっととぼけた感じのおばけたちとの関わりも面白くて、お子さんたちは何回も読んでほしいと思うでしょう。

ぷっぷるコラムメンバーズ・よこ(横山香織)

10歳・8歳・6歳のわんぱく3兄弟を育てるママライター。
親子の生活がちょっと豊かになるような、等身大の情報を発信していけたらと思っています。

JASRAC許諾
第6854640024Y38029号